"乗ったら阪急 だったらfuck you"といううたを作ったのは友人の宇宙だがマジで阪急梅田の瘴気はヤバヤバのヤバであすこだけ磁場がヘン。(←この言い回しはⒸ久野昆布)
①寺山修司
寺山修司が読めん。
嫌いな作家というわけではない。読む気が失せてしもうた。
大学1回生の頃、大阪市から立命館大学へ通っていたため阪急京都線をつこてた。
わかるひとにはわかるが、あの路線は通勤通学ラッシュ時座れることはめったにない。
やけどその日は、西院から梅田行きの満員電車に乗ったらボックス席のうちの1つだけ空いてて、ラッキーと思って座った。
そしたら前の奴が関取のような体躯、異常なヤニ臭さ、そして目の周りは黒く縁どられとる、これポン中や、だから空いてたのか、えらいとこ座ってしまったなと1人後悔して、関わりたくないから携帯弄ってた。
ポン中は闇寄りの山下清画伯といった風情で白いタンクトップがスス汚れており、裸の大将を見ても闇寄りでは感動しなかった。心臓が早鐘を打ったという意味では心を動かされたといえるが。
関わりたくないのに、ボックス席に座ってたポン中以外の他2人が早々に狸寝入りキメたためポン中は私にばかり話しかける。
本能的に危険を感じ取り、機嫌を損ねないよう物凄い集中力で相槌を打っていたが、(そういえば今日は図書館で本借りてあった、流石に読書中に話かけやせんやろ)と思って『田園に死す』を出すと
「おっ。寺山修司やんけ。」
なんと文学に微塵も興味がなさそうなポン中は寺山修司ファンだった。
益々勢いを得て話を振るポン中。
私は諦めて死んだ魚の目で終点まで話し相手になった。他の乗客が無視を決め込むなか、ナナメ前の席にいた見知らぬ若いカップルがこっちにおいでと手招きするがポン中の話を中断して立ち上がる勇気はなかった。
ポン中はよおりろ、はよおりろと念じていたが途中駅でおりる気配はまったくなく、同じく阪急使いのオリターの先輩にヘルプを求めるも彼はまだ学校にいた。
終点に着いた途端狸寝入りを解除してそそくさと去った2人のケツから永遠にハバネロがひり出されますようにと呪いながらやっとの思いでホームに抜け出すと、ポン中はビニール袋に入った大量の、凄く大量のシケモクを取り出して駅ナカで吸っていた。異常なヤニ臭さの正体はこれだった。
しばらくしてからもごく稀に阪急梅田でポン中を見かけることがあった。やはりホームで喫煙していた。とっくに公共の場が禁煙になっている時代に。
その後『田園に死す』を読み通す気にもなれず、以後一度も寺山修司に手をつけていない。
②快晴の日にしか現れない「あなた、幸せ?」女
③「絶対殺す」トイレ
早朝の阪急梅田駅のトイレで化粧をしていた。
朝早く準備して出ないと大学の授業に間に合わないのだが、ちょいちょい自宅で化粧するのを逃してしまうことがあり、その日はたまたま乗換えの関係でちょっとしたスキマ時間があって駅のトイレで化粧をすることにした。
トイレの鏡では、30代くらいの女性と一緒になった。ただし女性の服装は当時にしても妙に古臭く、バブルの遺産であるようなビビッドめの赤系のツーピースを着ており、それだけならまだしもジャケット・スカートともに毛羽立ちが目立った。
鏡の前で女性は「殺す…絶対殺す…」と延々呟いていた。
眼はギンギンに血走っており、なのにペンシルアイライナーを尋常に動かしてアイラインをひいているのが異常だった。彼女は私より先にトイレにいたのに私が化粧を終えても一向に鏡から去るようすはなく、ずっとメイクをしながら殺す、と言い続けていた。
<快晴の日にしか現れない「あなた、幸せ?」女>もそうだったが、どーして阪急梅田周辺に現れるヤバレディは、昔の恰好をしてるのだろうか。
◆
阪急梅田ターミナルは、なんやしらんヘンな魔があって、ふつうに店などをみながら歩いていてもちょっと曇ったような感じがする。
もう無うなったが、喫煙できる喫茶店があってなぜかその店は潜水艦を模したデザインになっており、労働者や老人のたまり場になっていた。たまり場、といっても客同士会話をすることはないが…若くてキンキラキンのパーソンは来ない。すっごいスピった言い方でイヤだけど、店と客同士、ある種のオーラを選別したうえで引き付けられて喫茶経営が成り立っていたように思う。
薄暗い(あこのターミナルはミョーに薄暗いしそのうえ地霊のような、でも地霊とは似て非なるもんというか、とりあえずヘンな何かがある)風景を潜水艦の内から眺めてぼんやりしていた。私がみた3人ともが並行世界の昭和・平成初期からの出現、といったようないでたちだったのは、何か因果関係があるのだろうか。
潜水艦は唐突に閉店したし、梅田でバイトすることも人と会うこともとんとなくなったので、今は梅田の怪をみていない。