闘病記9

【今日の病状】

食欲問題なし。

春は食べ物に困らない。サクラエビしらすが旬でご飯にドサっとかけておき、野菜はベビーリーフとミニトマトをごま油であえて食う。

 

底なしの眠気があり7時間睡眠で足りない。10時間を要する。

 

心臓からこぼれてる空虚にはつける薬がない。

 

だいたい満月あたり、月1回、体全体、特に爪の付け根と歯肉が疼き筋肉が凝る期間がある。昨日からそれだ。20才くらいからだったか、何気なく現れたこの現象。

全身をレモンスカッシュに浸してひねもす喫煙していたい。 

 

全身の疼きを無視しながら漫然と過ごしていると、中学の社会科教師の喋り方がいつの間にか移っていることに気づいた。xをエッキスと読むとか。

その人の一番の名言は「お前らな、テレビで明石家さんまみて明るいかしまし人やと思てるやろ、ああいう人らはほんまは家帰ったら一言も喋らんとタバコ一服してるだけなんや」だと思う。

後にIMALUの証言により明石家さんまは家でもやかましいということが判明したが、このものの見方は当時の私にグサグサと刺さり、今に至るまで記憶されている。

 

思うところあり梶井基次郎/のんきな患者を再読。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/425_19812.html

父はギリギリ梶井基次郎と同じ時代の大阪市南部を生きていた。作中、結核に対するさまざまなあやしい民間療法が出てくるのだが、父曰く「メダカのくだりはあり得るともあり得ないともいえる。あのあたり(阿倍野区)にメダカのとれる池は在ったかな…」

 

結核はいっとき猛威だった昔の病気、というイメージを持たれているが、西成などは未だに結核の注意書きが存在している。

 

【季節】

好きな季節を訊かれた。

夏以外好きじゃない。

春は木の芽時だし花粉が飛ぶし。秋冬は寒い。

夏は軽薄でギンギラギンでサイコーだ、早く地球温暖化がすすんで常夏になってほしい。

 

【夢の内容】

とうとう寿命がきてしまい、終わりの旅をする。

関西の山間地方を巡るバスに取引した人と乗っている。私はコットンの黒いワンピースに白のレギンスという気軽な格好で、要らン荷物や傘をようやっと放かした、という気楽さだった。

やるべきことは済ませたから終われるのだ、というこころもちで、のうてんきに取引相手としゃべっていた。

近畿の山道はそのまま参道であり古来から冥界に近い場所なので終わりの道でも不思議はない。修験道の修行者が渡る場所になっていたような所。

同行者はいずれ終わりになった自分を埋めるかなんかするんだろう。私は幸せものだな〜。

初恋の人に埋めてもらえる人ってこの世に何%いるの?

 

まあそんな平穏な終わり方なんてそうそうさせてもらえない。

 

場面変わって知らない都会の駅のホーム。

電車の車両上に腰をかけて発車を待つ。

色んな人を見送ったけど今度は自分が見送られ流浪の番…というところで違う車両が事故って脱線しこちらへゴゴゴガと寄ってきた。瞬発的に当たらないよう避けたが右脚の一部が軽く轢かれた。

大した痛みではないけれど。

ハァ、今日はここから出発できないんだな。

 

最後は高校生の時に戻って空港にいる。

自由極まれりな校風を反映して修学旅行の行先は選択制、私は古い友人と二人でダブリンに行く。他のグループはイギリスやフランスやシンガポールなど様々だ。

 

はて何故ダブリンなんやっけ?

つぶやいたら友人は苦笑していた。

この人の意見に応じて決めたはずなのだけど内容を忘れてしまった。どこが行先でも不満はないから行くが。

人々がごった返す空港で、わけもわからないままダブリンへ行け。

 

なんてことのない夢だし叫び声も出ないけど悪夢でしかないんだよな、両手で数えきれないほどの良い友人がいたって生活が平穏になってくれないんだし。

平穏しか求めてないのに、延々林芙美子生活。勘弁してくれ。

 

【失物】

美容室へ行くため化粧をしていると、右眼にだけコンタクトレンズがついたままなのが鏡に映った。

かすんだ原因はこれか。なんで片方だけ外してないんだろう? 

暫く裸眼生活は続けてみる。

それにしたって、鏡を見る機会は幾らでもあったのに、「視力がある」というだけで、なんも視えとらんかったのやな。

 

通っている美容室の担当美容師・茸氏が、私が眼鏡をしていないのを見て「前かけていたのは度の入ってないおしゃれ用の眼鏡なんですか」と聞いた。

「近視用やけど…散歩してたらいつのまにか落としてたんですよ。警察のホームページに、落とし物専用のページがあるけどそこでも見つからんし。買い直したけど、しいてつけんでもいいと思って今日は裸眼です」

「落とす? 眼鏡を? どうやって? しかもこの間指輪落としたばっかりじゃないですか。」

「それがわかってたら落とし物をせん人間になれてると思う…ともかく、歩いてたら落としてた。京都おった時は、あんまりにも鍵やら携帯やら失くすから、警察の人に覚えられて"今日は何を失くしたんですか"と言われたし。」

「僕は自転車の鍵すら落としたことがないですよ」

茸氏は17才の時に付き合った人と12年交際し結婚した。浮気もせん、手に職のある美男子という、世の女性の妄想を煮詰めた現人神だ。

 

「ああでもこれから失くすものに比べたら、今までの落とし物なんてたいそうなことないンやったわ」

「一体何を失くすんです」

「健康と時間」

 

茸氏に髪を整えてもらっている間は大概眠っている。

こっくりが大きくなり頭を受け止められて目が覚めた。

「僕が支えてなかったら、首を痛めてしまいましたよ。」

そのまま首が折れてしまえば成仏できただろうがそのような逝きかたはおそらくできなくて、当面の間もがくしかないんだろうな。