焦げた後に湿った生活

このブログは投げ銭制です。投げ銭先⇒「このブログについて」

闘病記?70

おとろしい話をしますが、人に話さないと袋小路に入るだけな気がしますから、書くことにしました。

 

この間の日記に記したけれども私はしばらくひどい頻尿というか、膀胱のコントロールがきかない状態になっていて、パンツや衣服を尿で汚してしまいがちになっていた。

加えて連日の雨続きで全然洗濯物が乾かず、布団のシーツに尿をひっかけてしまったのに外は雨…エアコンをつけて部屋の中に干しても半日では乾くまいとなったので、同じ家に住んでいて私が少し荷物を預けている人に、「そちらに置いてある毛布を今日使いたい」とお願いしたら寝る時に持って行ってあげると言ってくれた。

 

これは僥倖だった。

私は1人で寝るのが億劫になっていた。

寝てしまえば休日なら12時間くらいスヤスヤ寝るのだけれども、自分が無防備な状態で意識のないのが長く続くというのがイヤだった。

 

夜、あと一時間くらいしたら毛布を持って行ってあげようというLINEがきて、私は「今日はそっちの部屋で寝てもいい?」と聞いてみた。そしたら私の部屋にいてあげる、とのことだったので来訪者を待った。

 

私は起きた時からずっと心臓がザワザワしていた。薬を飲んだらザワザワが少々おさまるけれどそれは薬が効いたからで根本的な原因の解決ではない…

 

なので、来訪者が部屋に来た時には、すっかり嬉しくなって「今夜は警戒しなくて済む!」とニコニコしていた。

「嬉しい!」と声に出して言うと、「何が嬉しいのか」と聞かれたが、一度目は「それを口に出すのは恐ろしいから言わない」と返した。

 

しかし何気ない会話をしていて、生理が遅れているが医者にいってもどうせたかが10日ズレただけではストレスのない生活を…と無意味なアドバイスをされるだけだから行ってないんだ、それよりズレたことを気にしてる心の隙間を騒がしにやってくる奴らの方が嫌だ、とうっかり口にしてしまった。

 

本当にうっかりかな? 私は洗いざらい話してしまいたかったんじゃないか?

 

「奴らっていうのは、誰のこと? そもそも生きてる<奴ら>なの?」とかなり鋭い質問をされ、「常世のものどものことで現世のひとではない」と短く答えた。

 

「つまり生きてる?」

「いいや現世の方は生きていて、常世は生きてない」

常世に常の字が入ってるのは秀逸で、永遠性を一文字で感じられる。意識は永久に持続出来ないのだが無意識はそうではない。常世に所属するものの大半は無意識的なものである。

 

「じゃあ生きてる連中であなたに何か文句をつけてる人がいるってことではないんだね?」

「そういう人は今のところいない」

 

この家は何かがおかしくなった、と3日ほど前から感じていた。それで生理が遅れてることなんかよりよっぽど、家を最優先で対処すべきことになった。

(恐怖というのは怖いものがとりあえずなくなったあともこびりついたように脳裏にのこって、目撃者をジワジワと消耗させるものだ)

 

「誰も出してない音がする。平日の12時とか1時とかくらい? アンタさんの部屋から、とっくに寝てる時間のはずなのに、なんぞ音がしてるんや」

「その時間は確実に寝てるな」

「でしょ? ドアあけて確かめてもいいけど、寝てたら申し訳なくて…」

「LINEが返ってこなかったら寝てるんだけどこの場合寝てるかどうかは明らかになっても意味ないしな。どんな音?」

「足の先でドアをずっと蹴っているような音だった」

「起きててもそんなことしない」

 

そりゃあねえ。

他の者の部屋からも<誰も出してない音>がした。

日中留守にしていたはずの人の部屋からガサガサと音がしたり…彼女の飼ってるネコかもしれない、という希望は「じゃあ他の人の部屋は?」という絶望にかわるだけなので早々に切り捨てた。

 

音は自分の部屋からはしない。

理由は知っている! 彼らは私に直接猛威をふるうことは出来ない。それやる方が効率いいのにやらないのは、出来ないからだ。

その代わり、間接的に消耗させる方法でこっちを疲弊させる。

この家は広すぎて、私はみんながいないか寝てる間1人でどこからでもやってくる恐怖とたたかわないといけない。

 

このやり口は幽霊屋敷に生まれ育った私には懐かしい手法で、まだ来るかと感心すらする。

 

「心当たりは?」

「ありすぎるほどある。懐かしいな! …でもなんで今のタイミングで出てくるかわからない。生理が遅れてるという不安につけこむにしても、何故…」

 

もしかしたら婦人病か?程度の不安につけこむなんてわざわざ彼らはしない。

妊娠しているとしたら私はそれを祝福するし、彼らが冷やかしにくる意味もわからない。

何かしらのストレスに対して呼応したとしても、私がストレスを自覚していないなら掘り下げるだけ労力の無駄だ。

 

「だから、何も考えないことにした。」

 

私は今夜の限り1人で耐えなくてもよく幼い頃の恐怖の反復にはならない。

何故来たのかも考えない。パッと思いつかないのならばそれまでなのだから、来たら対応するしかない。

 

思い出すのは一番はじめに起こったこと、話していなければ忘れ去ってしまってたのだが。

思い返せば最初の音だった。

平日の夜の12時か1時、お風呂に入っていたら誰かが帰ってきて物に当たっていた。(リビングに置いてあるものを蹴ってると思った)

その時は酔っ払ってるか怒ったかした住人がそうしたのだと見過ごした、だけどよく考えたら1人しかそんなことしそうな人はいないし、該当者は寝てるし、そもそもそんな大きな音がしてるのに誰も気にして出てこないのがおかしい。現に以前そういうことをやった人がいた時は一階の子が心配して見にきた。

 

沖縄の伝承で「夜おとなの男が叫ぶのは不吉の前兆」と伝えられていたらしいがそれに類する吉凶の読み方は私も体得していた。なのに分からなかったなんて、いや、面倒だという気持ちがまさって何もしなかった…

違和感を無視しないで他の住人に確かめていたら、反復の呪いだとその時点で気づけたはずだ。何故なら、自分を害する記憶からその音は引用されていたからだ。

 

常世の字面に明白なように、永遠性を孕んでいるところからは、記憶よりオブジェクトが生成される。怪談だの怪異だのだって誰にも記憶されていないのではあれば伝播しえないし、発生もしない。

土地や血統にまつわるそれらもまた、トリガーとなる人の記憶がないのであれば基本的に意味をなさなくなる。読み手受け取り手が全く土地や血統に関係なくても、発生源の記憶がナラティブとなっている。

 

私が最初に聞いた音は、ある夜に酔って喧嘩をして、相手の思わぬ凶暴性を目撃した時の記憶が出典だった。ほっといたら自分に降りかかって自身を損いかねないものだった。でも私は無視した。記憶の時も、音が再現された時も。

そしてまた無視しようとしている…

 

 

「それで今のところの対応は、たいそう機嫌よく楽しく過ごすことにした。怪異はそういうのが嫌いだから」

ガサガサとなる奇妙な音はいつまで続くんだろうか?

私は常にものぐさが一番手にきてつまらない語り手かもしれない、(もし)<奴ら>が語られたがったり、反対に私が誰かに話さないで恐怖に押しつぶされていったりする過程で、アップダウンがなさすぎる。こんなに無視されるとは地獄からの使者も思わないだろう。

 

「ものぐさ霊障」誰にともなく呟いてこの夜は終わることにする、see you next life! 

 

怖くなったら呼ぶからよろぴく! 愛のカツアゲを始めるぞ!