焦げた後に湿った生活

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浮気とパイロキネシス

超能力は誰も幸せにしない。

主語がでかすぎるって? そうかもね。私の場合はそうだったと言っておく。私自身も、私の周りにいる人も幸せにしなかった。もっとも、超能力と自分を分けることはできないのだから、ESPのあること自体を含めた自分と周りとの交友関係を考えたら見方は違うかもしれない。

でも私は、我が半生はドラマティックであるというだけで、幸福だとは決して思えなかったのだ。

 

夜の京都で、私は最も執着している人間のひとりと遊んでいた。家族関係が希薄であった自分を、唯一親きょうだいのような目線で長いこと面倒みていた人物と。

遅い時間帯の四条河原町はキラキラしていて、西から離れて半年以上経った今でも帰りたいと思わせる風景だ。

まるで大学生の時みたいに、わざわざ河原町まで集まって2人で飲んでいた。終電のない時間に、遅いからタクシーでうちまで来て泊っていけばいいと告げられる…私にはもう京都で条件なしに泊まれる家がない。頼めば泊めてくれる友達は何人もいるが、今日は欲望のままにいきなり来てしまったので誰にも頼んでいなかった。いつもの思考停止(その選択肢をとったことが自分にとっていいとか悪いとか考えるのを放棄し、思考のリソースをさくのをやめて相手の言い出したことに従ってしまう悪癖がある)をして、連れ立ってタクシーに乗った。

連れは率先してタクシーを止め私から先に乗せた。いつも親切なのだ。大昔に「この人は常に自分がドアをあけて私が通るまであけて待っていてくれるなあ」と感心したことがある。感心は会うたびにある。

2、3駅ほどの距離を移動し、古い町屋をリノベーションしたようなおもむきのある2F建ての一軒家に案内された。友人は私を2Fのベッドルームに入れ、今夜はここで寝なさいねと言って、まるで赤子をあやすように私を寝かしつけた。そして、スマホをチェックしながら下に降りていった。

 

瞬時に私の嫉妬心はメランコリックに点火した。何が寝なさいね、だ! こんなところで寝られるわけがない。ここは相手が同棲している場所だ。現実とは違う、まるでインバウンド観光客向けの意匠をした家屋と寝室だけれど。(古風な模様をモダンにアレンジした壁紙がそこらに貼ってあって、ライトなども今っぽくアレンジされた和風のものだ) 住居の一部をAir bnb用にしているのだろう。旅行に来た人間向けの貸し出しをパートナーが副業もしくは本チャンの仕事としてやっている。さらに先ほどスマホをみていたのは彼女からの連絡をみるためだ。目に入ってしまった。こんなところに1秒もいたくない。

どうしてあの人はこの仕打ちに私が傷つかないと思っているのだろう、そんで私も言われるがままになっていたのだろう。どうしてちゃんとフってくれないのだろう。

 

ここを出てホテルに泊まろう。覚悟してすぐ動くのは私の少ない美点であり、限界まで我慢強くて限界を迎えれば一気にアクセルを踏む。ホテルをすぐさま予約し、やっぱり出ていくわ、と友人に告げた。友人は「もう遅いし危ないよ」となだめたが、決意はかたく夜の下京区に躍り出た。このひとが私を芯から心配しているのはわかっているのだ…

再びタクシーを止めた。今度は自分で。友人は「じゃあホテルまでは送っていく」と言って一緒に来た。お前が部屋に無事入るまで見届けるからねと。彼の立場にたって考えると、何をするかわからないぐれた少女をみている気分なのだろう。

ひとりで寝るなんておぞましいが、あの家にいるよりはましだ。どんなにきれいでおしゃれなところでも、あの環境は耐えられない。フルスピードで逃げる自分を、結婚生活から抜け出て東京へ行くときとそっくりだな(何も変わっていないということだ)、と思った。

 

ホテルへ着いてフロントでチェックインを済ませ、部屋にあがった。友人は言葉どおり私が部屋に入るところまで注視しにきていた。ベッド脇に荷物を置き、これ以上心配させないように「ちゃんとここで寝て今日はもう外にでないから」と彼に話しかけようと思ったその時、恐ろしい気配を感じた。

ESPで虫の知らせみたいなものを感じたことはあるが、今までにないほど強烈なものだった。明確に殺意がある。もしかしたら向こうは強すぎて殺意であるとすらみなしていないかもしれない、そのくらい相手と自分に力の差があった。目視しないでもわかるほどに相手は強かったのだ。

 

「こんばんは、〇〇さん。いつも…がお世話になってます」

女性の声であいさつがあった。ほがらかでかえって不気味だ。声の主は、会ったことのない友人のパートナーだった。年上とだけ聞いている。なにしに、ここへ来たのか。送り狼を見抜いて制裁しにきたならもっと怒り心頭であるはずだ。人を殺すつもりなのにそれがない。

急に相手が自分を超能力者だと知っていて殺しに来たのだと感づいた。ただの直感。直感ではあるが私のスキルは理屈や証明の過程をすっとばして解を出すことなのだ。理由はわからないが、これから殺すつもりだということは察知した。友人と自分を、ドアの軌道上からそれた一番壁の厚い場所に置いて黙って様子をうかがう。

 

ボゴンとすさまじい爆発がしてドアがすっ飛び、火炎玉が通過した。モウモウと煙がたちこめる。早鐘のごとく打つ心臓をなんとかおさえつけながら、(まっすぐ飛ぶだけでよかった、曲がる軌道なら逃れるすべがない!)と考えた。

ボゴン。

また焼かれた。攻撃力がきわめて高く、しかも連射可能らしい。私はサイキックでないので防ぐ方法はない。限られた時間で相手の心を読み取った。彼女は私を殺すだけが目的で、目的のために手段は選ばない。逆に言えば、私が死ねば誰も巻き込まない。

 

「私が出て行ったらあなたはすきを見て逃げるように。私のことが大事なら追ってこないで言うとおりにして」

とだけ言いふくめた。ついでに長いこと言いたくて言えなかったことはテレパシーにした。相手はESPじゃないからテレパシーはわからないだろう、私は送信するの下手だし。けれども今までの友情があるなら私にとってどれだけ大事な存在だったか、超能力がなくてもわかってくれると信じていたい。ちゃんとフってくれなくて憎んだことも、替えのきかない友人であることも真実である。

煙のあるうちに廊下にひゅっと出た。パイロキネシストは追いかけてくるだろう。この戦闘シチュエーション「レオン」みたいだけどレオンって死ぬんだよなー。

生死より慕情のほうが優先順位が高いからこうしているのだけれどねと思考しながらとにかく走る。

ホテルの廊下を疾走していたらいつのまにか違う時空間へ出ていた。よくあること。

しかしどーして、殺意があったのだろう。横恋慕への怒りでなしに。私だったらそっちにフォーカスしちゃうんだけどそうでなく別の目的や思想があったみたいだ。

若くてとにかく衝動を発散したがる有象無象のくそルーキーとちがって、あの女の人は慣れている。冷静で、行動に軸がある。

 

私が出てきた空間は地方のショッピングモールだった。あの、今もそうかはわかんないけど私の小さいころはショッピングモールやデパートって、ただ在るだけの意味ないスペースがあったのね。八尾の西武とかそうだったけど。一定の時刻になると光が点滅する滝がある謎スペースがあった。ここも同様で、「80年代~90年代初期の日本のおっさんが考えたジャングル」みたいな水と植物をモチーフにした飾りを作ったところに、私はいる。ラブホに色濃く残る文化だが、ある時期は日本中に無邪気な偏見というべき想像力で無駄な飾りを作る流行があったよね。

…と考えていると、上から降りてくるエスカレーターに人の気配を感じた。この建物は死んでいないらしい。

 

「あなたも、」

全て聞く前に逃げた。予期したとおりパイロキネシストである。2秒前まで私がいた場所に火炎玉が飛んできた。時空間を超えても破壊力は同じだった。

もうひとつのエスカレーターに乗り込み走った。エスカレーターを降りた先はうす暗いフロアで、しなびたビル(中野ブロードウェイやあべのルシアスを想起するがよい)によくある、占いの店とも呼べぬ一劃や誰をターゲットにしたかわからぬ婦人服店があった。そうだ少しでも目をくらますよう上着でもひっかけるか、と店をチラ見すると、「本業: 服屋、夜はラウンジ店員」のような女がいた。私はこういう女性が嫌いではないというかむしろ好きで積極的に心をひらきたくなるのだが、女は「どうぞお手にとって見て行ってください、せっかく逃げてる最中なのだし」と言った。

こいつもパイロキネシストの仲間か! 臨戦態勢をとると既に女は背後に回っていた、転移のスキルを持っているようだ。軽くつきとばしてまたダッシュする。これは本格的に横恋慕が関係なくなっているらしい。

 

危険察知をはたらかせながら、もといたフロアに戻ることにした。そこには例の火炎操作能力者はいなかったが、さえないおっさんが3人ほどいた。「このタテモンはあいつら(女たちのことだろう)に封じられていて、こっから出ないと俺たちはあぶねえ」という。なにゆえ彼らも殺されようとしているのだろう、と思ったらコツコツとヒールの音がして、ブルー系のぴたっとしたワンピースを着た女が現れた。大学の同級生に似ている。証券会社につとめている会社員、といったような風貌だ。彼女とちがって、不敵な笑みをたたえていたが。

 

「この世界はもう終わりにしますよ。女の超能力者が痛い目をみて、人間が幅をきかせてしいたげるだけの世界だから」

ああなるほど粛清に賛同しない超能力者から殺してるってわけかい!

現れた女は火炎玉のような強力な殺傷力を持っていないと感知した。私は一気に詰め寄って彼女を投げたあと、上がるエスカレーターをダッシュした。おっさんたちも後を走りながら「上に行くと出口から遠ざかる」とアドバイスしてきたが、とにかく屋上へ行けと勘が告げている。

 

はたして屋上には、バブル期の遺産ともいうべきプールがあった。無駄の極致。どういったいきさつでショッピングモールにプールがつくられたのか。だけどこれならいける。

気配がしたので振り返って女をつかみもろともにプールへ落とした。パイロキネシストではなく会社員風のほうだ。くそ! 水中なら火炎のスキルは意味をなさないし、水中戦なら私の方が有利(長時間もぐって海の生き物をつかまえてあそんだりしていた)だと判断したのに。

こいつから片付けるしかあるまい、とくんずほぐれつしていたら残りの2人も現れた。彼女らは3人で結束しこの世を粛清して新しい社会を作るつもりなのだ。

 

リーダー格とみられるパイロキネシストが言う。

「あなただってこのヒトたちが味方だとは全然思っていないのに」

そのとおりだね?

 

ボン、ボン。

火炎玉が2発飛んできたが思ったとおり水面で威力を失った。今水中で暴れている女を即座に片付けて残りも個別に処理できれば勝ちの目はあるが…どうしてもおっさんたちが戦力になると思えないし仲間だとも思えない、このルートの失敗確率が濃厚だと感じてしまう。今の世界を保持する理由も特に思い当たらない。

それでも私の闘争本能は今戦闘すべしと命令していて、女たちもおっさんたちも味方ではないと判断している。

出会いはMETROだった。べろべろに酔っ払ったS氏に気に入られ、ずーっと長いこと京都でつるんでた。彼が失踪するまで。

といってもひんぱんに連絡をとっているわけではなく気まぐれに「元気しているか?」とメールが来て(LINEの時代になってもそうだった)、私を食事に誘ってくれた。私はずいぶん彼から学習したものだ、サイゼリヤで一番スマートに飲みを愉しむ方法とか、さりげなく友達に紹介して一緒にあそぶ手筈とか。

我々のいたコミュニティは飲み屋に集まった人々が顔見知りになり飲み友達になっていき、常連同士の輪というものができあがっていって、のっぺりとしたシマみたいな状態だった。だけど、社会に"天A-天B-人間"というハッキリした3つの派閥が出来上がってからは、シマもそのとおりに分かれた。

 

天Aと天Bは超能力者で、AとBの違いは人間を保護するか粛清するかだった。人間は人間で、これまでの歴史と変わらない。ずうずうしく図太い生き物で、天Aは彼らにあわれみを持っていた。Bはおろかな人間をのさばらせていても世界は悪くなるいっぽうなので粛清してしまおう、という考えだった。私はなぜAに割り振られたかまったく覚えていない。自分の思想ならBに行く可能性も十分あったのだ。自由意思なのか、自動的に決まったのか、このあたりのことは記憶喪失になっていた。

天Aと天Bは定期的に戦争しており、お互い殺害を含めて戦闘していた。超能力者なので攻撃も死に方もハデだ。サイキックの話で、ESPの貢献方法は地味だが。人間は保護か粛清かに運命を二分されているわりに呑気なものだった。今までと特に変わりない。ちょっとは自分ごととしてとらえたらいいのにと思う。

 

今日も戦闘だった。戦闘開始地点と時刻は両方の派閥に共有される。指定された場所に時間前に行くと、くだんの友人S氏がいた。

「久しぶりね」

本当に久しぶりだよ。何年ぶりだ? 私はあなたが失踪してから行方を捜したが見つけられず、再会を待っていた。彼は変わらぬようすだが。

「*****(私の名前だ)は、天Aだったね」

「そうやで、Sちゃん。Sちゃんは天Bなんやな」

「そ~よ、あったりまえじゃ~ん」

何があったりまえなのかはわからないが、彼が私に開示しなかった内面と関わっているのだろう。味方がそろそろ戦闘開始の準備に入ろうとするところで、S氏が私を少しひとけのないところにひっぱっていった。

「いつまで天Aのつもり」

ああ、それは聞かんといて。

「もうみんな準備してるから行かんと」

引き寄せられまた問われた。

「お前も人間がおろかで地球を喰いものにするだけやってわかってるのに、なあ?」

殺し合いがはじまった。

逃れようとすると、いつかのようにもの慣れた手練手管があって、私は甘美なジレンマに苦しんだ。

「やめて、断れなくて堕天してしまう」

「*****がこっちに来たらいいだけでしょ!」

断れなくてといっても、もとより裂いた繊維ほどの判断能力しかなかった。

夢でも現実でも、世界がどのようにオワオワリになろうが、超能力者同士が殺し合いをしていようが、私は成長もなんもせず、自分のつまらなさや横恋慕にもがいているだけだということに気がついた。くっだらねえ。気づけただけ、マシかもしれないが。

あるいは、私の夢のなか、いろいろな並行世界はそれぞれがいつでもオワオワリなのだが、現実の終わってる具合が追いついてきたのかもしれない。

 

私が崩れほだされるだけの言い合いのうちに、かなりの部分、彼が真面目に同類を求めていることを悟った。これは昔のシーンのリメイクなのだ。私がうまく真剣に受け取れなくて彼を失望させたときの…

2020年現在心弱って同類を求めているのは私だ。もう一度対峙する機会があれば、同門にくだらせてとみっともないほどに自ら懇願するだろう。

経費精算のチェックをする仕事をしているので簡単にそれは見つかった。

わかりやすくダメな申請書だ。これを通してヨシ! になるなんて誰も思わないに違いない。なのにヨシ! になってしまったんだな。某首相と、某首相に近い人物の不正の証拠となる申請書を手にして、私はどーしたもんかと考えていた。

まあ、どーするもこーするも発見した以上アカンやないかと世間に知らしめなければいかんのだが。経験上若めの女で大した立場と権限も持っていないと、誰も言うことをマトモに受け取らないのはわかっている。かといって、協力してくれる有力者もパッと思いつかない。

思案しているうちに父親が不正ではないかと機関のしかるべき部署に言いにいった。あら、この世界線ではお父さんはブルーカラーでなくホワイトカラーでしかも親子そろって同じ職なのね。しかし、一介の職員では…と思ったら案の定一蹴されていた。

正しいことが正しいこととして処理されないどうにもならん世界やな。

ひょんなことから理系の研究者と再婚することになり私は人生で初めて金銭的に安定した、余裕のある結婚生活を送っていた。

が、ちょっとして夫である研究者が浮気をしていることに気がついた。ESP相手に浮気がバレないと思っていたなんてとんだアホウもいたものである。どーゆー理屈で感知されないという結論に至ったのだろうか。ほんまに理系か、オマエ? 

スマホよこし~や」と真顔で言うと夫は素直に渡した。浮気相手の素性もわかっている。同じ大学で働いている、M本Y子という研究者である。彼女は独身で私より年上だが、アホ夫とアホM本は私に賠償請求されるという未来は想定できなかったらしい。

夫はびくびくしながら「あの、直接連絡するのはカドがたつので、」とほざいている。「カドをたてているのはあんたらですよ」と静かにツッコむと黙った。

 

…の妻です。以後、夫に連絡しないように。

 

と短く送信すると、即返事が来た。ずいぶん自信たっぷりで、要約すると交際はやめない。あなたにそんなことを言われる筋合いはない。とのことだ。

筋合いがあるもないも私は妻という立場で法律に守られているんだよなあ。

 

あなたはただの浮気相手で、私は妻でありねぼけたことをぬかしていたら訴訟しますよ、と返した。

実際、夫は私と別れてM本と一緒になるつもりはない。私を恐れているのもおおごとになったらどうしよう、という点であり、あまったれぼっちゃんの心配事なのだ。夫のようすをみるかぎり、妻の立場が揺らぐことはない。一定の人間相手ならこれくらいのことは簡単に読めるし、夫はその一定の人間に含まれている。でも、M本は底が知れなかった。

「訴訟、したらいいじゃないですか。あなたには権利がないから上手くいかないですけど」

M本のLINEは断言口調だった。何を根拠に言っているのか、通常ならM本がおもいこみの激しい人間だ、ということで片付けられるのだが、私はどうも妙な信ぴょう性をぬぐえなかった。

 

もしかして、この男と再婚しているのは、どこからが妄想かわからないような壮大な妄想なのだろうか?

私はいつも容易に記憶喪失になる。どの世界線でも。本当は、それだけじゃなく、記憶喪失にくわえて妄想も発症しているのだろうか? 考えたとて、判断できる材料はないしもし妄想を発症した患者ならばなおさらすべはないのだった。

 

#夢日記