焦げた後に湿った生活

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殺人

今日は絶対潰れて迎えにきてもらうぞ、とかたく決意して飲んでいた。

結果的にいうと相手は2時半まで仕事していて連絡に気づかず目論みはうまくいかなかったけど、どうせこんなもんだろうなと思っていたのでふつうに帰った。もっと若く不安定な時だったら、何がなんでも1人でいたくないからどうにでもしていただろう。

それにしても「どうせ」というのが出てきたのはよくないね。向き合うべきものから逃げている時にこれは出てくるんだから。何から逃げているかは意識しなくても無意識がおしえてくれる。

 

私は関西に帰っていた。「東京飽きた 関西しか勝たん」というプレイリストを作って聴いていたくらい、このところくさくさして帰ってしまいたい気分だった。

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大阪に帰った私は甘え切っていた。両親にべったりで、ねむる時も一緒に寝にあがってもらっていた。夜の境に、寝室のある二階へ行く十数段の階段を上がった。今日一緒にねむってくれるのは父だ。父は万が一私が落ちてもいいように後ろにいるけれど、私は自分の意思で前にいた。だってここを上がりきって二階の部屋に入る扉を開けたら殺人鬼がいることがわかりきっているから。

 

この家は、昔からおかしかった。

二階にだけ恐怖が具現化している。それは「死ね」と囁く悪意の声だったり、女の子どもにだけ実害を与える性的加害の幽霊だったりした。姉は実際それが怖くて出て行ったのだ。私は働けないしそもそも保護者が必要な年齢だったから…諦めきっていた。

その代わり、出現自体には諦念でいても対応はした。実存を脅かされたら反撃したし、家を出てひとりだちするに値するだけの度胸をつけたし実行もした。

今日だって、殺人鬼がいると分かっているから、どうしても出るなら自分で何とかすると決めている。だから親より先にいっている。怖くても扉をひらくのは自分でする。

 

果たして扉をひらくと、予想どおり殺人鬼がいた。見た目はふつうのおじさんだったが、両目は人殺しの欲望に濁っている。きっとこれまで何回も殺してきたんだろう。何か喋る。その言葉が全てジャーゴンであることは分かる。このテの人間は一定数いるのだ。元義父とか。悪いけどねえ、こっちは文系大学院出てるんだよ! 意味ない戯言もうgood night.

殺人鬼が静かに自然にバタフライナイフをスライドしているけど私は微妙に立ち位置を調整して親が出てこれないようにした、親の死ぬとこみたくないし。相手がナイフを振り下ろそうとする一手前で私の左手は刃を握り動きを止める、超痛い、でも離さない。

そのまま右手で殺人鬼の上半身を突き刺す。何で? 法事に使う銀の箸じゃん。出現するロジックはわからないけど、出てきても自然なことだとも思う。私はイエから離れてもイエから完全に逃れられない存在だから、イエの象徴たるものがアイテムになるのはそういうことだと考える。

銀の箸は殺人鬼を絶命させるに至らない。心臓の少し上、脇の左あたりに刺さってそれなりのダメージを与える。私が全然バタフライナイフの刃を離さないからここでの戦闘は拮抗し座標は変わる。

 

 

殺風景な道路を歩いている。なんとなく、高円寺のはずれかな、という雰囲気だ。だが高円寺にはあり得ない草ぼうぼうの空き地があるあたり、現実ではないね。

 

一緒に歩いているのは父親で、手をつないでいる。親と手は繋がないから、現実の誰かを反映しているのだろう。

またぞろ殺人鬼が出てきた、手を離して、前と同じようにナイフの刃を握って止めたが、空虚が私の内面からいっせいにあふれでてきて私自身を覆う。

 

ああ、いつまでたっても、恋をするたびに、親に頼れなかった過去を取り戻そうと空虚な試みをしているのだな。

すさまじい悲しみが襲ってきた。親の代わりを、同じトシくらいの人に求めても無為であることは知っているのに。ただでさえ激務でワーカホリックな人だから、ますます空虚な試みだ…

 

「家にいてていいよ」

父親の姿を借りていた人物が本来の見た目に成って言う。

「家にいても一人だから無駄だよ、あなたは残業でいないでしょう。求めてるのはそれじゃない」

「朝までにスライド2100枚作らなきゃいけないんだ」

 

飲み会で言われた、アンタはママみがありすぎる、というフレーズがリフレインした。

私は自分が欲しいものをその時々の相手に与えていたらしい。

そして、今日のたったいま欲しいものは、どうやったら手に入るかわからない。家にいたら不満が解消されるかもしれないとは、もう思えなくなっていた。

私が欲しいのは、連綿と続く関係性のうちに、お互い自己開示をしていくことなのだから。自己開示を相手はしてくれないから、交流が深まった気がしない。しかもそれは、殺人鬼の発生とコインの裏表なのだ。

 

殺人鬼は透明になってどこかへ消えていた。しかし、忘れた頃にやってくるだろう。

それまで私が同じ場所に留まっているという保証もない。